すずめ

大学構内ですずめを見かけた。そのすずめは羽を痛めていたらしく、人が近寄っても逃げる気配がなかった。みんな不思議そうに見ていたが、特に気にすることもなく通り過ぎていく。
そんな中、一人の男性がそのすずめに目を留め、しばらく様子を見た後、かばんの中からタオルを取り出してすずめの前に広げ、じっとすずめを見ていた。どうやらすずめがその上に乗ってきたら、そのまま、どこかに連れて行こうというつもりらしい。おそらくどこかで手当てを受けさせるつもりなのだろう。おれはたまたまそこで人を待っていたので一部始終を見ていたが、そういう行動には出なかった。


冷たいといわれても仕方がないと思うが、こういうときどうしてもそういう気になれない。迷うが、結局都会にいたとしても野鳥は野鳥だからと思うからだ。特に道徳心とか信念とかあるわけじゃないが、最後まで責任を取れないのならばと、そう思うのだ。
このときも、最寄の獣医を知っているわけではないし、怪我が治るまで面倒を見ることもできない。その上、本当の所、厄介ごとはごめんだとも思っていた。いたずらに手を出すべきではないと、ただ見ていた。どうせタオルを広げてみていても、すずめが自分から進んで人間の手に乗るわけでもないだろう、と。正直その男性を半分馬鹿にして見ていた。
ところが、すずめはタオルの前で少し様子を見た後、それに乗ったのだ。しかもその後運ばれる最中はほとんど暴れる様子もなかった。


驚いたと同時に、自分を恥ずかしく思った。