この物語はフィクションです

とりましょう。

「親父、元気にやってるか」
「ああ」


電話口の向こうからぼそりと返事があった。四十を過ぎた今となっては気にならないが、子供のころはこの陰気な父が苦手で、父が帰る前には床についているのが日常だった。


「母さんも心配してた。親父、家事全然できないだろ」


実際のところ、家事はおろか他のこともあまり得意とは言えない。この歳まで人付き合いや仕事をそれなりにこなしてこれたのは、ひとえに母のおかげだろう。その親父は今、遠い地にいる。


「ちゃんと食べてるのかよ。簡単にでいいから野菜もとらなきゃもたないぜ。最近では凄い大根おろしもあるし」
「ああ」


久しぶりの会話だ。向こうも緊張しているのだろうか。


「・・・もうすぐクリスマスだな」
「そうだな」


そんな不器用な父も、クリスマスのプレゼントだけは欠かしたことがなかった。こういうイベントを盛大に祝うことはなかったが、目に見える父の愛情というものが、子供にとっては何物にも代えがたいものだと父なりにわかっていたのだろう。


「頼んだ物と違うって、クリスマスの次の日の朝は毎年泣いてたな」
「そんなこと覚えてるなよ」


少し笑った顔が浮かんだ。エジソンの伝記が枕元にあったのも今はいい思い出だ。


「毎年、何も言わなくても用意してくれたよな」
「親の義務だからな」


少し胸が熱くなった。親父はいつも俺のことを考えていてくれたのだ。


「だから、今年はさ」
「うん」


父も感じ取っているのだろうか。俺のこの思いを。勇気を出して言った。


Wii欲しい!


凄い大根おろし